路上演奏者の悟り

中国の大学は夏休みに入ると、レッスン室が借りられない(日本の音大はどうなんだろう?)。
実際のところ、建物自体は閉鎖するわけでもないのに、管理上、人を締め出したいらしく、午後から閉鎖するから出てけとか言うんだよね。
(本当はまだ仕事をしている先生もいたりするし、宿直のおばちゃんは、交代制で出ているので、ずっと開いていたりする)
まぁ、確かに、学生の中にはちゃんと練習したり、リハしたりするわけじゃなく、そこで寝たり、雑談したり、食べ散らかしたりする子もいるから、利用させたくないのも分かるけど、勉強熱心な学生を応援してくれたっていいじゃん…

何とかならないかと留学生事務室などを通じてお願してみたけど、正面から聞いても無駄なんだよね~
中国人はよく嘘をつくというけど、皆、自分のポジションの都合で可愛いウソをつく(笑)

で、ついに練習する場所を失くした私は、外で弾いている。
この際、人前で弾く練習を兼ねてやろうと前向き。

分かったことがいろいろありました。
いろいろな人がこれまで私に「人は他人のことなんて何とも思ってないんだから、気にするな」と言っていたことは本当だったんだな~

ただ、私は田舎育ちで、ちょっと外でアホなことやらかすと、近所で噂になって、いろいろ悪口言われちゃうという、そういう環境で育ち、加えて両親がすごく世間体を気にする人たちだったんで、そういう感覚分からなかったんですよ。
祖母の家の近くの公園(もちろん、実家とは別の都市なので、私のことを知る人がいるはずもの無い土地)で、笛吹いて練習してた時もあとで母に散々
「そんなみっともないことして」と叱られました。
「私の顔に、私はあんたの娘ですって書いてあるわけでもなし、あんたと私は違う人間なんだから、私の勝手じゃんか」と思ったものです。
上手く弾けないから、練習するんでしょうが。
しかも日本社会の音に対する過剰反応や住宅事情からすると家で練習できないから外へ行ってるわけだし。
このみっともないというのは、日本人特有の考え方なのか、それとも単に私の両親が変なだけなんでしょうか。
でも、現実に都市の人と言うのは他人に無関心なんですね。

で、話を元に戻すと、誰も聴いてくれないのなら、こうなったら、立ち止まらせてやろうじゃんか、みたいに燃えてきたりして(笑)。

やっぱね、津軽三味線弾くと、人は立ち止ります。
これはおそらく、日本の楽器と曲が珍しいということでしょう。
それから、そもそも津軽三味線は、津軽の芸人さん達がいかに他人の気をひいて、その日のご飯にありつこうかっていうことからスタートしている音楽だから、貴族趣味の音楽と違って魅力的なんでしょうね。
中国人が知るはずもない曲なのに(私だってこの間まで知らなかった曲だ)、いいね~と言ってくれるんですよ。

三弦はというと、哀しいかな~
「それ、何ていう楽器?」と中国人に聞かれる始末…
これが琵琶や二胡なら、誰も聞かないよね…
そして、私が弾ける楽しい曲がほとんどなく、得意なのは物悲しい民間の曲なのでウケが悪い(わ~ん)
子どもはわりと何らかの興味を示すけど、なにせ、アニメソングくらい弾けないと、注意ひけないよな~
喜羊羊のテーマとか、練習しとくんだった(おいおい)
モーツァルトのトルコ行進曲とか弾けたら、多分、子どもを立ち止まらせられるんだろうけど、これ、めちゃ速くて両手の合わせ方の訓練をするような上級曲だから、私なんてあと5年は修行しないと無理だわな。

路上演奏して、分かったことは、
日本人はどうか知りませんが、
「他人は基本的に自分の演奏なんてどうでもいい」
「他人は私の演奏ミスなんて気にしない」
「他人はむしろ、私の演奏のよい部分に魅かれて近寄ってくる」

そういうことなんですね。
もちろん、入試とかコンクールとかの審査とは演奏を評価する基準が違うんでしょうけど、
他人は私の演奏にさほど悪意を持つわけではないということが分かっただけでも、気が楽になりました。
要は聴衆と言うのは、無関心 OR 好意もしくは好奇心 のどれかでしょう。

私はこれまでずいぶん、自分のミスや音程の狂いに嫌悪感を抱いてきて、それがもろ顔に出てました。
先生方も、「どうして、そこまで気にするの」と私に言うので、
「芸術系の教育だけ受けてきた人との差なのか、日本社会との文化の差なのかは分かりませんが、いずれにせよ、私はこれまで、100%出来て当たり前、120%出来た時にやっと褒めてもらえて、99%なら足りなかった1%を責められ、1%足りないだけで99%の努力はゼロに等しくなるという世界で生きてきました。100字のレポート書いたとして、1つ誤字があっただけで、内容に影響がなくたって、その不注意によってダメなやつという烙印押されます。だから、誰かが99%の中の良い部分を見てくれるとは思えないんですよ」と言ったら、「そんなものかねぇ、芸術なんてあまりにも抽象的だから、百かゼロかなんてありえない」と言われたものです。
でも、私の気持ち、日本で仕事の経験がある方なら、多分、分かっていただけるのではないでしょうか。

プロとしてお金取ってるわけでもなく、たんに自分の演奏をアップしてるだけなのに、「こんなんで、よく公開できるよね」って結構、みんな言ったりするわけでしょ。
正直に言えば、私も口には出さないけど、素人の演奏のいいところ、これまであまり聞いてませんでした。
ミスばっかり気になるんですよね。
別に私はその人からお金取られてるわけでもないし、その人の先生でもないんだから、嫌なら聞かなきゃいいわけだし、聴く以上、よいところ聴いてあげるべきなんでしょうね。
受けてきた教育と環境の悪い習慣なんでしょうか。

発表会などであがってしまうとか、恐怖だという人は、一度、異文化社会の公園で演奏してみたらどうだろう?
おそらく、な~んだ、こんなもんか、と思うんじゃないかな。

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